十億円の真実2(10-2)


泣いた所為か少し感情が昂ぶっていた。それがいけなかったのかもしれない。
その後、河田先生から治療の話がでてかなり動揺していた。
治療を受ければ、自分が嘘をついていることがばれてしまう・・咄嗟にそう思って首を振った。
しかし、この先もっと酷い状態になる可能性もあると聞かされた時にひどく迷った。
自分だけで何とかするつもりで頑張ってきたが、もうここが限界かもしれないとかなり弱気になっていた。
とにかく謙吾にこれ以上心配かけたくなかったし、それに、どんなに忘れようと努力してもあそこでの出来事を思い出さないで済む日はなかった。
思い出す度に拒絶反応のように込み上げてくる吐き気に、体力だけでなく気力さえも奪われていくような気がしていた。
だから、謙吾にしばらくここに入院することになったと聞かされた時、心のどこかでもう潮時なのかなと半分諦めたような心持ちになっていた。
保田に嘔吐(もど)しているところを見つかった時も 知られてしまったことにショックを受けながら その一方で ああ、もうこれで保田の前では、無理して繕わなくても済むんだ・・とわずかに安堵していた。
実際、気分が悪くなった時、保田が大丈夫ですかと優しく背を撫でてくれると少しだけ気持ちは違った。
誰かに全部 話してしまうことができたら もっと楽になるのかな・・
心療内科と聞いた時には身構えてしまったけれど、この河田先生なら、ひょっとして分かってくれるんじゃないか・・響は、そう思い直し始めていた。
きっかけが無理やり云々は別として、自分にとって謙吾だけが特別な存在なのだと・・そんなふうに言ってくれたからだ。
勇気を出して話してしまおうか・・
響は膝の上に置いた手をぎゅっと強く握り締めた。目の前に座る河田は優しい笑みが浮かべ待っているように じっとこちらを見ている。
覚悟を決めて響は、口を開きかけた。
しかしその途端、脳裏にあの時の事のことが鮮明に浮かび上がってきた。
言えない。
話せるわけがわけがない・・あんなこと誰にも・・
握りしめていた手はじっとり汗を掻き、拳が小刻みに震え出すのを止められなかった。
気持ち悪い・・
ぞわぞわと悪寒がし、全身から嫌な汗が噴き出てくる。
「おい!響くん!」
声をかけられたと同時に、響は嘔吐していた。しかし昨夜から何も食べていなかった所為で胃液しか出ない。

「大丈夫か?」
河田は、そう言いながら慌てて響の身体を横にさせた。すると、今度は両手で耳を塞ぎ、首を激しく振り始めた。
「・・いやだ・・」
響は、頭の中に聞こえてくる男たちの声を振り払う為、必死だった。それでも自分を嘲る男たちの声は消えてくれない。
助けて・・
『淫乱』
男たちはあの時 自分のことをそう言って罵った。
ギイギイと天井に吊るされた縄が軋む。
「いやだ!触るなぁぁ・・」
拘束された身体に延ばされてくる無数の指、薬で敏感になった肌が無情に粟立つ
肌を這う舌の滑(ぬめ)る感触に嫌悪しながらも感じってしまった・・
その状態から何とか逃れようと必死に叫んだ。止めて、許してと懇願し続ける響を男たちは嘲笑った。男たちは、響が嫌がれば嫌がるほど、抵抗すればするほど、逆にどんどん興奮していった。
最後は正気を失くすほど薬を足され、身の内に代わる代わる男たちを咥え込みながら狂喜の声を上げていた。最後の方は自分でも殆ど憶えていない・・
それらすべてがまるで今 現実に身に起きているように錯覚してしまう。


「響くん、どうしたんだ?落ち着いて。」
今度はいきなり自分の身体を掻きむしり始めた響の腕を河田は慌てて掴んで拘束した。両手で押さえつけているため、ナースコールが押せない。
「やめて・・許して・・お願いだから・・挿れないで・・」
ガクガクと全身を激しく揺らしながら泣き叫ぶ。目の焦点は合っておらず、目の前にいる河田のこともどうやら もう見えていない様子だ。
「拙いな・・」
そう呟いた時、さっとドアが開いて、廊下に待機していた警護役の男たちがいきなり部屋に飛び込んできた。全身を使い何とか響を押さえつけている河田を見て男たちが色めき立つ。
「てめぇ、響さんに何しやがる!」
いきなり飛びかかってきた男たちに、
「早く、そのナースコールを押して香西を呼びだしてくれ、。」
そう必死になって叫ぶと、事情を察した男たちが機敏に動いてくれた。
「響くん、大丈夫だ。ここには君を脅かすものは何もない。安心していいんだ。」
河田の声がちゃんと聞こえているかどうか分からないが 何度も何度も耳元でそう呼び掛けてみる。
遠巻きに男たちも見守る中、少しずつだが様子が落ち着いていっているようにも見えた。しかし、バタバタと廊下を駆けてくる足音がして、香西が走り込んでくると、
「いやぁああ・・見るな・・謙吾!見ないで!」
叫びながらまた暴れ出した。結局、警護の男たちの力も借りて4人がかりで何とか抑えつけ、精神安定剤を打つ。
薬が効き完全に眠ったのを見ると警護の男たちは、黙って部屋を出て行った。
部屋の中が二人になるとベッドの端に腰をおろした香西が
「困ったことになったね・・」
そう言って溜息を吐くのが聞こえてきた。
「すみません。」
河田が詫びると、
「河田先生が悪いなんて思ってないですよ。でも、いったい何が起こったのか詳しく話してくれますか?」
視線は河田には向けられず、響の方を向いたままだ。心なしか顔が少し青ざめているように見える・・
「それが、よくわからないんです。いきなり、様子がおかしくなって・・」
河田にも、突然のことで何が発端になったのか分からない。ただ口走っている言葉から、どうやらレイプされた時の記憶がフラッシュバックしてしまいパニック状態に陥ってしまったようだ。
そのことを簡単に説明していると、今度は、剣呑なオーラを纏った謙吾がそこに飛び込んできた。



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ありがとうございました

2009年11月14日 | 十憶円の真実2 | コメント 3件 | トラバ 0件 | TOP