かわいい意趣返し3
夕食を摂った後、ちょっとしたハプニングがあった。
二人でのんびりと風呂に入っていたのだ。それは総檜のちょっとした旅館を思わせるりっぱなものだった。
「広い風呂ってやっぱり気持ちいいな。」
「まぁ、これは俺も気に入っている。」
と 謙吾も機嫌がよかった。
そこにガラっと戸が開いて、
「お背中を流させていただきます。」
と白い儒判姿の色っぽい女性が入ってきたのにはギョッとした。
響はちょうど湯船に浸かっていたが、謙吾は身体を洗う為、洗い場にでていた。
「うわわわぁ」
響は、思わず叫んで、首まで慌てて身を沈めて隠したが、謙吾は堂々としたものだ。
『おい隠せよ 謙吾!前』
とそれを見て響は心の中で叫んでいたが・・
逞しい謙吾の肉体を目の当たりにして、その女性はうっとりと頬を染めている。
結局、その女性は、
「邪魔だ。」
という謙吾の人睨みで大人しく出て行ってくれたけど・・

「驚いた。」
確かに驚いた。
「驚くぞってこういう意味だったのか?」
そう訊くと謙吾は
「違う。」
とだけ答えた。少し機嫌が悪いようだ。
でも響はこの時は ヤクザの家とはこういうものなのか単純にそう思っていた。
『背中流しに女の人が入ってくるんだからな。こういうのは普通の家ではないよな・・』

風呂から上がると、部屋に蚊帳がかけられ布団が二組ひいてある。距離を離してひいてあるのに ちょっと意図を感じた。
「蚊帳か こういうのも何かいいな。」
「そうか?家が古いからな。」
「随分大きい屋敷だしね。子供の頃は寂しくなかった?」
「ああ、昔は部屋住みの気の荒い若い衆が大勢いて賑やかだったからな。その頃、響がここへ居たらきっと逃げ出してただろうな。
今は静かなもんだ。」
「保田くんとかは?」
滝沢組で、何人かの若い人を見たことがあったので、そう訊くと
「今の若い奴らは部屋住みなんて根性なくてもたねぇな。」
と 謙吾が笑った。
時代が変わったのだと言う。対暴法のせいで昔ながらにシノギが出来なくなり、形態がより企業のそれに近くなった。
本宅では、僅かに残った昔ながらのシノギを若頭の坂下さんをはじめ、先代から滝沢組に尽くしてくれている人たちで回しているのだという。
「今じゃここは老人ホームに近いな。」
年配の組員たちには、今のシノギのやり方に馴染めない。かといって行き場のない彼らに場所を残して置く必要があるのだ。
「最後までちゃんと面倒みるんだ。」
響が感心していうと、
「その辺の企業なんかより終身雇用はしっかりしてるぜ。
なんせ家族と同じだからな。」
盃を交わすということはそう言うことなのだ。
一見 シビアな世界に見えるが、義理と人情が色濃く残っている世界。平気で人を裏切る世の中だからこそ、その世の中からはみ出したヤクザの世界ではこういう絆が大切にされているのかもしれなかった。
布団の上に横になって響は、
「ここは、謙吾の生まれ育った家なんだなぁと思うとやっぱりなんか感慨深いな。」
と そんなことをぽつりと呟いた。そうすると、
「おまえもたまには、家に戻りたいんじゃねぇのか?」
謙吾がそんなことを聞いてくる。
確かに一度、実家に戻って検事を辞めることも話さないといけないと思う。それから、もう帰るつもりもないことを話さなければならない。
『一応俺、長男だしな・・親も もう半分は諦めていると思うけど・・』
親とは時々、電話で話したりはする。正月や盆くらいは帰って来られないの?と厭味を言われるのも度々だ。
「俺もおまえの両親に一度挨拶に行かなきゃならねぇしな。」
「えっ?」
「おまえをちゃんと貰いにな。」
「それ本気で言ってる?」
「冗談で言わねぇだろ。」
正直、親に謙吾とのことをカミングアウトするつもりは響にはまだない。
「・・・まだ、もう少し待ってよ。」
「おまえは、いつも俺に待てばかり言うな・・」
謙吾が自分の布団を出て、覆いかぶさってきた。
「ちょ・・ちょっと、謙吾、拙いって、ここ・・」
部屋は広いと雖も、廊下とは襖一枚で隔たれているだけで、少し大きな声を出したら、きっと聞こえてしまう。おまけにいつ誰が廊下や庭先を通るとも限らない。
「自分の家なんだ。そんな気使う必要なんかねぇだろ?
それに年寄りたちはとっくに寝ている。」
まだ9時を少し回ったところだ。そんなわけないだろ?と突っ込みを入れたかったが、項に触れてくる指に、産毛がジリジリと逆立つのを感じた。
「軽くだぞ。」
もうすでに欲情に濡れ初めた瞳で、軽く睨んで腕を謙吾の首に回す。

「んっ・・ぁぁ・・」
身体はすでに臨場体制に入っている・・それなのに急に謙吾の動きが止まった。
襖がすっと開いて、人の入ってくる気配がした。
衣擦れの音に視線をやると、それぞれ白い儒判姿だったり、シルクのガウン姿だったりする女性たちが、畳に手をついて、
「若頭よりお二人にお楽しみいただくようにと・・」
と蚊帳の中に入って来ようとする。
『何なんだ これは?
大奥?ハーレム』
咄嗟にそんな単語が頭に浮かんだ。
響は、今自分がどんな恥ずかしい格好をしているのかも忘れて驚きのあまり固まったまま動けない。
もちろん何は急速に萎えていた。
チッと謙吾の舌打ちの音が聞こえた。
「御奉仕させていただきます。」
そう言って、女性たちがいきなり着ているものを脱ごうとする。
「失せろ。」
その氷のように冷たい声色に女たちが青ざめてそそくさと出て行った。
女たちが出て行って響はやっと我に返った。
「響・・」
謙吾が肩を抱かれて、自分の身体が小刻みに震えているのがわかった。
もちろん怖いわけじゃない当然これは怒りでだ。
「どういうことだよ 謙吾。ここへ帰る度、いつもこんなんなのかよ!」
「俺、明日の朝一番に帰るからな!
いや、やっぱり居る!帰らない。」
謙吾と女たちのハーレムの図みたいなのが頭に浮かんで、響の頭には完全に血が上っていた。
「響、これは・・」
「煩い!」
気がつけば、謙吾を殴っていた。
「坂下さんが本宅の様子を一度見ておいた方がいいっていったのは、このことだったんだな!」
響は完全に我を忘れて怒っている。そんなことは初めてだった。謙吾は響のこの勢いにタジタジとなりながらもどこか嬉しそうだ。

翌朝、謙吾は坂下と顔を合わせた。
「おはようございます。
それ、わざと響さんに殴られたのですか?」
口の端が少し赤くなっていた。
「あぁ、初めてだなヤキモチ妬いて可愛かった。」
「そうですか・・」
「おまえこそ 今回の事、知っていてわざと響を誘ったな。」
「若頭のことですか?
ええ、もう若頭も組長の結婚のことはどうやら諦めたようで、こんどは形振り構わず、子種だけでもって考えたようですよ。」
「凝りねぇな。」
本宅に帰る度に、見合い相手が待ち受けているということはこれまでもあった。
だから謙吾としても、それ程度のことと考えていた。
昨夜のことはどう考えてもやり過ぎだ。
「今度、こんな真似したら二度と帰って来ねぇぞって坂下に言っとけ。」
「でも、それが若頭の唯一の生き甲斐ですからね。」

それから坂下はしばらくして、廊下で眠そうな響と会った。この様子では、どうやら最後は仲直りしたらしい。
「響さん、おはようございます。」
「あ、坂下さんおはようございます。」
「昨夜は大変だったそうですね。」
そう言うと戸惑いながらも訊いてきた。
「あの謙吾は、昨夜みたいなことは普段ないって言ってたんですけど・・」
「ええ、どうやら昨夜は若頭が、勝手に先走ったようです。」
「そうですか。」
ほっと安堵の溜め息を漏らした姿が可愛くて、ちょっと意地悪したくなった。
「でも、どうしても謙吾の子供がほしいみたいですよ。簡単には諦めないかもしれませんね。」
「えっ?」
「冗談ですよ。」
坂下としては、今回のことは、ほんの意趣返しのつもりだった。
もちろん、響にではなく謙吾に対してだ。
だいたい急に温泉行くなどと謙吾が我儘を言わなければ、自分の恋人のことがばれることなんどなかったのだ。
だが当の謙吾には全然応えてないらしいばかりか喜んでいる風情さえある。
『些か、やり方がかわい過ぎたか・・』
と反省した坂下だった。
一方、若頭の坂下も、今回のことを反省していた。
「おい、暁。」
「何でしょう?」
「三代目の相手のあの響さんとやらが亡くなったあやめ様に似ておると気づいていたか?」
あやめ様とは謙吾の母親だ。
「えぇ、そのようですね。」
「なぜ教えてくれなかった。」
「訊かれませんでしたので。」
「おまえは相変わらずだな。」
「まぁでもこれで、若の好みがようわかったし、次はその気になるような女子(おなご)を絶対用意して見せるがな。はははっ」
と 懲りずにまだやる気満々だ。
「しかし、ずっとお育てしてきたのにそれには気づかなかったな。ふむふむ
なるほど なるほど。」
どうやら、またよからぬことを企んでいるらしい。
だが父親の気が謙吾に向いてくれているのは坂下にとっても好都合だ。
「そう言えば暁、そろそろおまえも・・」
「では、私は仕事がありますので。」
本宅は、謙吾だけではなく坂下にとっても近寄りたくない鬼門なのであった。

END




今回は思いっきり遊んで書いていて楽しかったです。
はははっでもやっぱり内容はないですね。
今週中に退院できそうです。しばらくは点滴に毎日通わなくては行けないようですが・・
でも家に帰れるのは嬉しいです。でも家の中がどんな事になっているかちょっと恐怖ですけど^_^;
仕事もどうしょう・・


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【2008/08/18 14:31 】
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かわいい意趣返し2
結局、翌日午後、謙吾と一緒に本宅に向かった。
いつものように黒塗りのベンツ3台を連ねて行く。
りっぱな門がまえのいかにもといった感じの古い屋敷の前で車が止まる。
中から舎弟と思われる人が出てきて門を開けた。
「「「おかえりなさいやし」」」
門から玄関までの道のりをずらっと並んだ厳つい男たちが謙吾を出迎える。
響は、まるで映画のワンシーンでも見ているような気になった。
謙吾は、頭を深深と下げるその男たちの間を堂々と通って行く。
『確かに驚いたけどこれは想定内だな・・』
そう思いながら響も、坂下の後に続いて中に入った。その後を小島、広中と続く
一歩広い玄関に足を踏み入れると、今度は外の様子とはガラリと一変した。
上がり框に両手をついて出迎えているのは、厳つい男衆ではなかった。
美しい女性たちだ。
清純そうな少女のような女性から、色気過剰とも思える艶っぽい女性まで各種取り揃えたように並んで座っていた。
それを見た謙吾がたちまち眉を顰めて不機嫌になったのだが、その時、響は、その中央に、居住まいを正してこちらを凝視している初老の男に目が釘付けになっていて、まったくそのことに気づいていなかった。
『渋い・・』
任侠映画にそのまま出てきそうな 威圧的な雰囲気を醸し出していたその男が
「三代目、お帰りなさいまし。」
と相好を崩して、頭を下げた。
「あぁ坂下。これが響だ。」
いきなり紹介され、戸惑いながらも微笑んだ。
じっと自分を見つめるその坂下の眼差しに背筋に緊張が走ったがなんとか笑顔は崩さないで頭を下げる。
「初めまして。広田響です。」
「若頭を預からせて頂いております。坂下です。」
深深と頭を下げてそう挨拶された。
何か言われるかと思って身構えたが、それっきり特に何も言われず、そのまま、奥の部屋へと案内される。
よく見れば、宵と面ざしが良く似ていた。
『そりゃ親子だもんな』
と言うことは 坂下さんは母親似なんだな〜と後ろを歩いている坂下に響はちらっと視線を向けた。
で、その坂下はと言えば、さっき玄関口で、
「若頭 お久しぶりです。」
と頭を下げて他人行儀な挨拶をしていた。
若頭の方も
「ふむ」
としか言わない。
なんとも淡白な親子だった。

通されたのは二間続きの広い和室だった。
響はキョロキョロと辺りを見回し、
「ここが謙吾の育った部屋?」
と訊いた。
「いや、ここは親父の部屋だったな。」
「謙吾の部屋は?残ってないのか?」
「俺は、そういうもんに頓着しねぇから、まぁ部屋は残っているだろうが、きれいさっぱり片付いて何もねぇだろうな。」
「ふーん」
そんなものなんだろうかと少しがっかりした。
明日ここで、亡くなった先代組長の(謙吾の父親の)ちょうど何回忌か目に当たる法用が行われるのだという。その為に三日間謙吾は本宅に戻ったのだ。
あと正月にも必ず本宅に戻る。正月は正月の行事がいろいろあるらしい。
謙吾のお父さんか・・
どんな人だったんだろう?そう思いふと思いたった
「なぁ謙吾の子供の頃のアルバムとかないの?」
「アルバム?写真なんかが見たいのか?」
突拍子もない響の思いつきに謙吾はなんだ?という顔をしている。
「別にどうしてもっていうわけじゃないよ。」
謙吾は気のなさそうに、
「まぁ退屈だろうからな
坂下に訊いておいてやる」
と言って、部屋を出て行った。
どうやら、今からあいさつにきた訪問客を迎えるらしい。
今日は、来客はそんなに多くないって言っていたから、すぐ戻って来てくれると言っていた。
やはり知らない屋敷の部屋に一人取り残されるのはなにか落ち着かない気分で、だからと言ってむやみやたらにあっちこっち見て回るのは失礼だろうと、部屋に面した広縁に出て、そこから見事に手入れされた日本庭園を ただ ぼーっと眺めていた。
そこに若頭の坂下さん(父の方)が部屋にやってきた。
手にアルバムを持っている。
「どうぞ」
「すみません。
ありがとうございます。」
訳もなく緊張する。
『何か言われるんだろうか?
この人からすれば俺は、邪魔だろうしな』
確か、坂下さん(父)はずっと以前から 謙吾を結婚させようと、いろいろ画策して見合いを進めていると聞いている。
じっと顔を見つられ、咄嗟に笑顔を繕ったが顔が引きつりそうだった。
しかし、
「若が衆道に走ったと聞いた時は信じられなかったがなるほど・・」
と小さく頷くと出て行ってしまった。
『なんだったんだ?』

「へぇ、謙吾ってば、こんな頃から無愛想だったんだ。」
おむつをつけた赤ん坊がムスッとした顔で写っている。
「でも、生まれた時からいい男だったんだな〜クスクス」

「なんだ、楽しそうだな。」
アルバムを見始めたところで、謙吾がちょうど戻ってきた。
「いや、謙吾は生まれた時から、ずいぶん整ったきれいな顔してたんだと思って。
両親のいいとこ取りしたって感じだよな。」
謙吾に面ざしの良く似た男性と、赤ん坊を抱えた女の人が並んだ写真を指さした。
「お母さん、ずいぶん綺麗な人だったんだな。」
「小さい頃だったからな。あんまり覚えてねぇな。」
謙吾のお母さんは謙吾が5歳の時に病気で亡くなったと聞いた
「いままで気づかなかったが、似てるな・・」
「えっ?」
謙吾は気まり悪そうにボソッと呟くと
「いや、こっちの話だ。」
と黙ってしまった。
「写真少ないね。」
「好きじゃねぇからな。」
子供の頃の写真は 少しはあるが、中高生くらいのものになると殆んどない。
「これ、坂下さんだね。」
学生服を着た謙吾と坂下さんが並んで写っている写真が一枚だけあった。
もうこの頃には、謙吾も坂下さんも今と左程変わらないりっぱな体躯をしている。顔つきは今より少し幼い感じがするものの謙吾はすでに、特有の硬質のオーラを纏っている。
坂下と言えば、今よりもずっと冷たい表情をしている気がする。
「あぁ、この頃、坂下と二人一番暴れたな。毎日、いろんな奴と喧嘩ばかりしていた。
その内 誰も喧嘩吹っ掛けてこなくなっちまってすぐつまらなくなっちまったがな。」
謙吾が言うには、坂下さんはこの頃から冷淡で、絶対こいつだけは敵に廻したくないと直感で思ったそうだ。

「なぁ謙吾はどう思った?坂下さんの恋人のこと。」
響は恐る恐る訊いてみた。
坂下は、あの温泉旅行から暫くして あっさり、自分の恋人のことをカミングアウトしてしまった。それもさりげなくさらっと皆の前で言ってのけたのだ。
謙吾の方も別段 驚いたふうもなく、さらっと流してそれで終わった。
だから変な勘繰りをしてしまったのだ。
普通 驚くだろ?
だが他の組員たちも、どうリアクションを取っていいのかわからないらしく。
そのことには極力触れないようにしているようだった。
「あぁ、あれか正直驚いたな。だが、俺はあんな奴を恋人にしている相手の男にまず感心するぜ。」
謙吾は心底そう思っているようだった。
どうやら自分はとんだ検討違いな邪推をしていたのだと分かって響は苦笑した。





すみません。まだあと1回くらい続きます。
やっぱりお盆中に書き上げられませんでしたね^_^;
今回の話、ただ謙吾の本宅の様子と響がやきもちを妬くところが書きたかっただけで、(気晴らしに書いているだけなので)あまり内容がないです。
でも書きながらムフムフと一人楽しんでます。
お付き合い下さってありがとうございます。
次回は響が、謙吾に怒っちゃいます。初めての痴話ゲンカ?になるのかな?

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【2008/08/16 16:13 】
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かわいい意趣返し
体調は殆んど、元に戻っていた。本来なら世間が夏の連休で、浮かれているこの時期も国家公務員の響は忙しく働いているはずだった。だが職場の方が、飛び交う噂が沈静化して落ち着くまで、登庁して欲しくないという意向だったので響はまだ休職扱いのまま自宅マンションで静養中だ。
響としても、検察を辞める方向で気持ちが固まりつつあった。
そんなある日、昼の1時も過ぎたころ、坂下が響のいるマンションに来て言った。
「響さん、もしよろしければ 今年の盆は、本宅の方で過ごしてみる気はありませんか?」
と・・・
盆が近づくこの頃、謙吾は、殆んどマンションに帰って来なくなる。
この時期は、ヤクザの世界は義理ごとが多くて忙しいのだ。
それは毎年のことなので、慣れているが、突然そんなことを言われたので、驚いた。
「今年は、何かあるんでしょうか?」
と訊ねた響に対して 坂下は、
「滝沢の稲和会での役職が上がったので今年は、こちらから出向く用向きが減り、その分 組長は本宅で客を迎えることが多くなりそうなのですが・・
まぁそれとは別に、本宅の方では例年この時期いろいろありまして・・
いずれ響さんも本宅の方へお移りしていただく日が来ると思いますし、今後の参考までに一度、ご覧になっておくのも・・」
といつもはっきりと物を言う坂下にしては歯切れの悪い言い方をした。
坂下がそう物言いをする時には、決まって裏に何かあると考えた方がいいということに、今ではすっかり知りつくしている響は、取り敢えず肯定とも否定とも取れない返事をしてその場は済ませておいたのだが・・

そんなこともあって、深夜遅い帰宅にも関わらず、めずらしく謙吾の帰りを待った。
「おかえり。」
謙吾が部屋に入ってきた途端、女物の強い香水の匂いがした。
今夜はクラブで接待だったに違いない。
謙吾は一瞬、驚いたような顔をしたが、にっとその端正な口端を上げると、そのままバスルームに消えていった。
女の匂いを落としてくる為だ。


「明日から三日は、ここには帰れねぇな。」
散々身体が蕩けるまで抱き合ったその余韻の残るベッドの中、つまらなさを含んだ声でそう言われて、なぜか胸に引っかかることがあった。
「本宅に帰るんだろ?」
どうやら謙吾の方は昼間の話を知らないようだった。
「あぁ、そうだ。」
「ふーん」
謙吾の本籍や住民票の住所は、本宅にあり、このマンションは言わば仮住まいということになる。本宅は謙吾が生まれ育った家だ。
「どうした?」
「昼、坂下さんが来て今年は俺も本宅へ行ったらどうかって・・」
「坂下が?」
途端、謙吾が眉を顰めて、
「暁の奴・・」
と小さく呟くのを響は聞き逃さなかった。
どうやら謙吾の方は俺に来てもらいたくないらしい。

「そう言えば仕事決めたのか?」
けだるげにベッドにうつぶせる響の背を撫でながら、謙吾は何げなく話を切り替えた。
「一応」
響はわざと素っ気なくそう答える。
だってそうだろう。
今度こそは、謙吾の仕事の手助けをする仕事に付きたかったのだ。
それなのに、またしても、謙吾がそれに難色を示したのだ。
検察を辞めて、謙吾のところの顧問弁護をしている澤村さんのところで働かせて貰えたらと考えていた。
そこで仕事を覚え、いつか謙吾の片腕の一人として役に立つようになるのが望みだった。
だが結局 澤村さんの紹介で謙吾の会社とは全く関係のない企業弁護を主に扱う中堅の弁護士事務所の面接を受けることになった。

謙吾の気持ちがわからない。
どうして、自分が謙吾の仕事に関わろうとするとああまで嫌がるのか・・
謙吾には坂下さんという片腕がいるから俺は必要ないのか?
という考えに到り、ちょっと寂しい気がしていた。
「俺もやっぱり本宅に行こうかな・・」
そう言った途端、謙吾が、覿面(てきめん)に渋い顔をした。

その謙吾の嫌そうな顔を見て意地でも行くと決めた。
「坂下さんも、盆の間 その本宅で過ごすんだよな。」
『坂下さんは謙吾のこと何でも知っているのに、俺は何にも知らない・・』
「そうだが、坂下がどうかしたのか?」
謙吾が訝しげな顔で俺を覗きこんでいる。意味が分からないと言った感じだ。
「兎に角、俺、一度謙吾の生まれた家を見てみたい。」
「かまわねぇが・・たぶん、驚くぞ。」
謙吾はそう言ったきり、特に反対はしなかった。


最初俺は、坂下さんに男の恋人がいると知った時、正直心強いと思ったんだ。
でもそれから、坂下さんと謙吾の間に何かあってもおかしくないんじゃないかっていうことに気がついた。
別に今、坂下さんとの中を疑っているわけじゃない。
謙吾のことは信じている・・
だけど坂下さんと謙吾が過去そういう関係でなかったと言い切れるだろうか?
謙吾は男の俺を抱くし、坂下さんは男に抱かれている。
(未だにあの坂下さんが・・と信じられないのだが・・)
中学からずっと一緒に居るのなら そんなことがあったとしてもおかしくない・・
もしそうだとしたら、俺、全然敵わない・・
そう思ったら、胸の中の寂しさがムカつきに変わった。
どうしてそんな気持ちが湧いてくるのか分からない。
『これじゃまるで俺が坂下さんにやきもち妬いているみたいじゃないか・・』





HPでのUPがちょっと面倒だったので、ブログの方で番外編UPしました!(^^)!
お盆に響が謙吾の本宅に帰省?
次は、坂下パパも登場する予定です。お盆の話だったのでお盆中に全部UPしたかったのですができるかな?
いろいろご心配おかけしています<(_ _)>
病院でこっそりUPしているので、一人一人の方にお返事を書くことは出来ないのですが、メッセージはありがたく全部読ませていただいて治療の励みにしております(T_T)
今日の聴力検査の結果、100くらいだった聴力が今70くらいまで回復してきています。
検査の方に伺ったら通常は20以下だそうですのでまだまだですね〜
完全に元に戻るのは難しいらしいのでせめて50くらいまでは回復したいなと思っています。
焦りは禁物なので・・
でも、身体は健康だから兎に角退屈です。無理もできませんしね(>_<)

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【2008/08/14 17:27 】
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