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夕食を摂った後、ちょっとしたハプニングがあった。 二人でのんびりと風呂に入っていたのだ。それは総檜のちょっとした旅館を思わせるりっぱなものだった。 「広い風呂ってやっぱり気持ちいいな。」 「まぁ、これは俺も気に入っている。」 と 謙吾も機嫌がよかった。 そこにガラっと戸が開いて、 「お背中を流させていただきます。」 と白い儒判姿の色っぽい女性が入ってきたのにはギョッとした。 響はちょうど湯船に浸かっていたが、謙吾は身体を洗う為、洗い場にでていた。 「うわわわぁ」 響は、思わず叫んで、首まで慌てて身を沈めて隠したが、謙吾は堂々としたものだ。 『おい隠せよ 謙吾!前』 とそれを見て響は心の中で叫んでいたが・・ 逞しい謙吾の肉体を目の当たりにして、その女性はうっとりと頬を染めている。 結局、その女性は、 「邪魔だ。」 という謙吾の人睨みで大人しく出て行ってくれたけど・・
「驚いた。」 確かに驚いた。 「驚くぞってこういう意味だったのか?」 そう訊くと謙吾は 「違う。」 とだけ答えた。少し機嫌が悪いようだ。 でも響はこの時は ヤクザの家とはこういうものなのか単純にそう思っていた。 『背中流しに女の人が入ってくるんだからな。こういうのは普通の家ではないよな・・』
風呂から上がると、部屋に蚊帳がかけられ布団が二組ひいてある。距離を離してひいてあるのに ちょっと意図を感じた。 「蚊帳か こういうのも何かいいな。」 「そうか?家が古いからな。」 「随分大きい屋敷だしね。子供の頃は寂しくなかった?」 「ああ、昔は部屋住みの気の荒い若い衆が大勢いて賑やかだったからな。その頃、響がここへ居たらきっと逃げ出してただろうな。 今は静かなもんだ。」 「保田くんとかは?」 滝沢組で、何人かの若い人を見たことがあったので、そう訊くと 「今の若い奴らは部屋住みなんて根性なくてもたねぇな。」 と 謙吾が笑った。 時代が変わったのだと言う。対暴法のせいで昔ながらにシノギが出来なくなり、形態がより企業のそれに近くなった。 本宅では、僅かに残った昔ながらのシノギを若頭の坂下さんをはじめ、先代から滝沢組に尽くしてくれている人たちで回しているのだという。 「今じゃここは老人ホームに近いな。」 年配の組員たちには、今のシノギのやり方に馴染めない。かといって行き場のない彼らに場所を残して置く必要があるのだ。 「最後までちゃんと面倒みるんだ。」 響が感心していうと、 「その辺の企業なんかより終身雇用はしっかりしてるぜ。 なんせ家族と同じだからな。」 盃を交わすということはそう言うことなのだ。 一見 シビアな世界に見えるが、義理と人情が色濃く残っている世界。平気で人を裏切る世の中だからこそ、その世の中からはみ出したヤクザの世界ではこういう絆が大切にされているのかもしれなかった。 布団の上に横になって響は、 「ここは、謙吾の生まれ育った家なんだなぁと思うとやっぱりなんか感慨深いな。」 と そんなことをぽつりと呟いた。そうすると、 「おまえもたまには、家に戻りたいんじゃねぇのか?」 謙吾がそんなことを聞いてくる。 確かに一度、実家に戻って検事を辞めることも話さないといけないと思う。それから、もう帰るつもりもないことを話さなければならない。 『一応俺、長男だしな・・親も もう半分は諦めていると思うけど・・』 親とは時々、電話で話したりはする。正月や盆くらいは帰って来られないの?と厭味を言われるのも度々だ。 「俺もおまえの両親に一度挨拶に行かなきゃならねぇしな。」 「えっ?」 「おまえをちゃんと貰いにな。」 「それ本気で言ってる?」 「冗談で言わねぇだろ。」 正直、親に謙吾とのことをカミングアウトするつもりは響にはまだない。 「・・・まだ、もう少し待ってよ。」 「おまえは、いつも俺に待てばかり言うな・・」 謙吾が自分の布団を出て、覆いかぶさってきた。 「ちょ・・ちょっと、謙吾、拙いって、ここ・・」 部屋は広いと雖も、廊下とは襖一枚で隔たれているだけで、少し大きな声を出したら、きっと聞こえてしまう。おまけにいつ誰が廊下や庭先を通るとも限らない。 「自分の家なんだ。そんな気使う必要なんかねぇだろ? それに年寄りたちはとっくに寝ている。」 まだ9時を少し回ったところだ。そんなわけないだろ?と突っ込みを入れたかったが、項に触れてくる指に、産毛がジリジリと逆立つのを感じた。 「軽くだぞ。」 もうすでに欲情に濡れ初めた瞳で、軽く睨んで腕を謙吾の首に回す。
「んっ・・ぁぁ・・」 身体はすでに臨場体制に入っている・・それなのに急に謙吾の動きが止まった。 襖がすっと開いて、人の入ってくる気配がした。 衣擦れの音に視線をやると、それぞれ白い儒判姿だったり、シルクのガウン姿だったりする女性たちが、畳に手をついて、 「若頭よりお二人にお楽しみいただくようにと・・」 と蚊帳の中に入って来ようとする。 『何なんだ これは? 大奥?ハーレム』 咄嗟にそんな単語が頭に浮かんだ。 響は、今自分がどんな恥ずかしい格好をしているのかも忘れて驚きのあまり固まったまま動けない。 もちろん何は急速に萎えていた。 チッと謙吾の舌打ちの音が聞こえた。 「御奉仕させていただきます。」 そう言って、女性たちがいきなり着ているものを脱ごうとする。 「失せろ。」 その氷のように冷たい声色に女たちが青ざめてそそくさと出て行った。 女たちが出て行って響はやっと我に返った。 「響・・」 謙吾が肩を抱かれて、自分の身体が小刻みに震えているのがわかった。 もちろん怖いわけじゃない当然これは怒りでだ。 「どういうことだよ 謙吾。ここへ帰る度、いつもこんなんなのかよ!」 「俺、明日の朝一番に帰るからな! いや、やっぱり居る!帰らない。」 謙吾と女たちのハーレムの図みたいなのが頭に浮かんで、響の頭には完全に血が上っていた。 「響、これは・・」 「煩い!」 気がつけば、謙吾を殴っていた。 「坂下さんが本宅の様子を一度見ておいた方がいいっていったのは、このことだったんだな!」 響は完全に我を忘れて怒っている。そんなことは初めてだった。謙吾は響のこの勢いにタジタジとなりながらもどこか嬉しそうだ。
翌朝、謙吾は坂下と顔を合わせた。 「おはようございます。 それ、わざと響さんに殴られたのですか?」 口の端が少し赤くなっていた。 「あぁ、初めてだなヤキモチ妬いて可愛かった。」 「そうですか・・」 「おまえこそ 今回の事、知っていてわざと響を誘ったな。」 「若頭のことですか? ええ、もう若頭も組長の結婚のことはどうやら諦めたようで、こんどは形振り構わず、子種だけでもって考えたようですよ。」 「凝りねぇな。」 本宅に帰る度に、見合い相手が待ち受けているということはこれまでもあった。 だから謙吾としても、それ程度のことと考えていた。 昨夜のことはどう考えてもやり過ぎだ。 「今度、こんな真似したら二度と帰って来ねぇぞって坂下に言っとけ。」 「でも、それが若頭の唯一の生き甲斐ですからね。」
それから坂下はしばらくして、廊下で眠そうな響と会った。この様子では、どうやら最後は仲直りしたらしい。 「響さん、おはようございます。」 「あ、坂下さんおはようございます。」 「昨夜は大変だったそうですね。」 そう言うと戸惑いながらも訊いてきた。 「あの謙吾は、昨夜みたいなことは普段ないって言ってたんですけど・・」 「ええ、どうやら昨夜は若頭が、勝手に先走ったようです。」 「そうですか。」 ほっと安堵の溜め息を漏らした姿が可愛くて、ちょっと意地悪したくなった。 「でも、どうしても謙吾の子供がほしいみたいですよ。簡単には諦めないかもしれませんね。」 「えっ?」 「冗談ですよ。」 坂下としては、今回のことは、ほんの意趣返しのつもりだった。 もちろん、響にではなく謙吾に対してだ。 だいたい急に温泉行くなどと謙吾が我儘を言わなければ、自分の恋人のことがばれることなんどなかったのだ。 だが当の謙吾には全然応えてないらしいばかりか喜んでいる風情さえある。 『些か、やり方がかわい過ぎたか・・』 と反省した坂下だった。 一方、若頭の坂下も、今回のことを反省していた。 「おい、暁。」 「何でしょう?」 「三代目の相手のあの響さんとやらが亡くなったあやめ様に似ておると気づいていたか?」 あやめ様とは謙吾の母親だ。 「えぇ、そのようですね。」 「なぜ教えてくれなかった。」 「訊かれませんでしたので。」 「おまえは相変わらずだな。」 「まぁでもこれで、若の好みがようわかったし、次はその気になるような女子(おなご)を絶対用意して見せるがな。はははっ」 と 懲りずにまだやる気満々だ。 「しかし、ずっとお育てしてきたのにそれには気づかなかったな。ふむふむ なるほど なるほど。」 どうやら、またよからぬことを企んでいるらしい。 だが父親の気が謙吾に向いてくれているのは坂下にとっても好都合だ。 「そう言えば暁、そろそろおまえも・・」 「では、私は仕事がありますので。」 本宅は、謙吾だけではなく坂下にとっても近寄りたくない鬼門なのであった。
END
今回は思いっきり遊んで書いていて楽しかったです。 はははっでもやっぱり内容はないですね。 今週中に退院できそうです。しばらくは点滴に毎日通わなくては行けないようですが・・ でも家に帰れるのは嬉しいです。でも家の中がどんな事になっているかちょっと恐怖ですけど^_^; 仕事もどうしょう・・
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