一億円の愛3-1
22時10分、今夜、最終の東京行き のぞみに飛び乗り、響は、ほっと胸を撫で下ろした。
後2時間もせず、謙吾に会える…
ひと月ぶりだった。
3年前に大学を卒業し、在学中に司法試験に合格した響は、司法修習を経て、弁護士の道へ進もうと考えていた。それが、大学へ入る前からの漠然とした目標でもあったのだ。
だが、将来の進路のことで、些細なことから謙吾とケンカになり(と言っても響が一人で怒っていて謙吾の方はわけがわからずといった状態だったのだが)半ば、響は謙吾へのあてつけのように検事になる道を選んだ。尊い志を持って検事になった仲間には決して言えない理由である。
司法修習を経て、希望どおり検事になり、最初の赴任先である名古屋に来て半年が過ぎようとしていた。
実家に近い名古屋は響には馴染み深い場所である。しかし…
「響さんがお帰りになるのを組…いえ社長も首を長くしてお待ちになっているはずですよ。」
グリーン車両の座席番号を確認すると、響に座るように促しながら保田が言った。
この保田は、1年前から響の警護についている謙吾の組の舎弟の1人だ。響の赴任に合わせてこの保田も同じくこの地に赴いた。
実家の母親から、「こんなに近くに居るのに一度も顔を見せない親不孝者」と言われても、響は、土日の休みが取れる時は必ず、東京に帰った。
そう帰った…6年近く謙吾と暮らしてきた響にとって東京の謙吾の元こそ いつの間にか自分の帰る場所になってしまっていた…
しかし、真人が拉致されたあの忌まわしい出来事から5年が過ぎても、響はまだ決められないでいる。
確かにあれ以来、謙吾が約束してくれたように自分は危険な目に合うことはなかった。もちろん自分のまわり人たちにも…
それは響が、意識して人間関係を希薄にしてきたせいもあるかもしれないが、謙吾の気遣いによる部分が多い。
保田の話では、謙吾の愛人の存在は その世界ではかなり有名であるらしいが、それが誰であるのかは、組の中でも一部のものを除いて知るものも少ないトップシークレットなのだそうだ。
以前 響が自分の守りなどさせられて不満はないのかと保田に聞いた時、保田は、
「響さんの世話をさせてもらえるということはそれだけ組長に信頼してもらっている証拠ですから。」
とそう嬉しそうに話してくれたのだ。
愛されているのは、この年月の中で常に感じ続けている…謙吾がいつか心変わりするのではないか?と正直 疑う心もあった…しかし、今は信じられる。
もう そろそろ はっきりさせなくてはいけないと思う…実際、謙吾と離れて暮らしているこの半年で、いやがうえにも謙吾の存在が自分には不可欠なのだと知ることになった。
ひと月、身体を合わさないだけでもう耐えきれないほどの飢餓感に襲われる…
なんとか仕事をやりくりして今夜、最終の新幹線に こうして飛び乗ったのだ。
東京駅に着くまでの95分間がやけに長く感じられる。
「着いたら、起こしますから眠って下さい。」
最近のハードワークを心配して保田がいった。
「ありがとう。」
東京に帰ったなら、なかなか眠らせてはもらえないだろう…保田の気遣いに甘えて響は目を閉じると意識をフェイドアウトさせていった。

テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/03/31 22:58 】
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