温泉旅行編1
響は今朝、謙吾が出社した後、すぐ、いそいそと旅行の準備を始めた。
旅行に出かける明日の朝が待ち遠しくてたまらない。


謙吾がいきなり温泉にでも行かないかと言いだしたのは、昨夜のこと
「二泊三日くらいでどうだ?」
「温泉ってもしかして旅行?」
「そうだ。嫌か?」
それを聞いてつい顔が綻んだ。
考えてみれば旅行なんて高校の修学旅行以来だ。
そればかりか、この6年間は、謙吾と一緒に出掛けたこともない。
たまに食事に出掛けたりはしたが、その時は、いつも別々の車で出掛け、響はいつも裏口からこっそりと入った。
おまけに予約してあるのは、必ず個室で、そのせいで、あまり外食を楽しむ気持ちには なれなかったのだ。
響の存在はずっと、秘密だったのだから仕方がない。
それも、いろいろな意味で自分を守る為に謙吾がそうしてくれていたのだから文句は言えない。
一度だけ、出会ったばかりの頃、遊園地に連れて行ってくれたのが二人で出掛けた唯一の思い出だ。
だがあの頃の自分は、それを、素直には喜べなかった。
それ以来、謙吾と出掛けるのは、初めてのことでしかも今度は旅行だという。
嬉しくないわけはなかった。

「いいのか?」
だが響は少し心配になってこちらから訊き返した。
「こっちの世界じゃおまえはもう有名人だし、もう こそこそする必要もないだろう?」
「ん。」
そうなのだ。あの襲撃事件で響の顔はあっという間に裏の世界で広まってしまった。
もう 謙吾にとって響を隠す意味は無くなったのだ。
「じゃあ これからは一緒に街を歩いたり、映画をみたりできる?」
「なんだ そんなことがしたいのか?」
そう言って謙吾が笑いながら、響の腰を抱きよせた。
「誰に見られても知らねぇぞ。」
旅先ならば、響の知り合いに見られる心配はないが、さすがに街中は、拙いだろうと謙吾はそう言ったのだが、しかし響は、
「構わないよ。」
と、けろっと言い放った。
「したいならするが、ただし護衛付きだぞ。」
そう言われて響は露骨に嫌な顔をする。
大柄な いかにも堅気ではない屈強な男たちに囲まれて街中を移動するなんて想像しただけでも、どっと疲れそうだ。
「もしかして、旅先もいっぱい付いてくるの。」
「二人きりじゃ行けねぇだろうな。
だが、出来るだけ人数は抑えて連れて行くつもりだ。」
「ふーん、で、いつ行くの?」
「出発は明後日だ。」
「随分、急だな。」
「本当は、もっと長く連れて行ってやりてぇんだが、すまねぇな。」
謙吾が仕事で忙しいことはよく知っている。自分の為に 明後日から三日も空けるのは随分大変だっただろう。
「でも、よく坂下さんが承知したよな。」
ニヤッと謙吾が笑う。
「坂下は、昨日から休暇を取って、居ねぇ。」
それで、急遽、鬼の居ぬ間に旅行に行くことを思いついたのだ。

坂下は、休みを取るように謙吾に勧めつづけられて、渋々という形で結局一週間という長期休暇を取った。
その代りに その間の謙吾の仕事のスケジュールは、厭味なほど びっしり組んであった。
謙吾は、坂下の休暇の第一日目、そのスケジュールをどうしても自分がこなさなければ回らないものと、部下で代理が利くものとに瞬時に振り分けて、前半2日と最終日一日働けばいいように調整したのだ。あとは、メールと電話で指示を出せば問題ない。
だが、坂下にとって、自分がこういう行動にでることなど想定の範囲だろう。
と、謙吾は至って当然のように部下を呼び出し、仕事を分担していった。

「こんなもんだろう。後は・・おい小島。」
「はい。」
坂下の留守の間、坂下の代行をこなしている小島を呼びつけると命じた。
「明後日、俺は、響と二泊三日で旅行に行くぞ。
温泉だ。おまえ段取りしておけ。
ああ、それからおまえは悪いが留守番だ。その腕じゃ温泉行っても無理だからな。」
「はい。申し訳ありません。」
そう言われた小島は深深と頭を下げた。
本来なら、自分はこうして組長の前に立つことは許されない身のはずなのだ。
それを温情でこうして許された。

自分は取り返しのつかない失敗をしたのだ。
信頼されて響さんの護衛を任されていたのに・・・
『響さんにあんな一生残るほどの傷を負わせてしまった。』
小島は、響を守り切れなかった責任を取るため、あの事件の夜、こっそりと指を詰めようとしていた。
だが、そこに、たまたま偶然、帰ってきた坂下によって止められ、小指は切断されることはなかったのだが、
「責任を取らせて下さい」
と小島が思いのほか抵抗したもので、坂下は小島を押さえつける力を加減出来なくなり、つい、そのまま小島の腕をポキッと折ってしまったらしい。
まぁそれが、結果的に坂下が、小島を仕置きしたということになり、小島は療養も兼ねて、一か月の謹慎で許されて、やっと一昨日 組に復帰してきたばかりだった。
しかし小島は、腕のギブスがまだ取れていない。





ちなみにあの時、サボってランチをしていた部下二人は小島にボコボコに殴られました(*^_^*)
今ではしっかり反省し、サボることなく忠実に組の為に働いております<(_ _)>

この番外編は3〜4話くらいの話になる予定ですが^_^;まだ未定です。
題名を悩んでしまって、ん〜結局まだ決められません。
とりあえず、温泉旅行編とつけておきました。題名が決まったら変える予定でいますが、
どうしても浮かんでこないんですよね。珍しく・・・
アドバイスがありましたら是非<(_ _)>

テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/07/01 23:17 】
一億円の愛 番外編 | コメント(0) | トラックバック(0)
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