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「段取りしておけ」 とは、宿を取るのはもちろん、運転手、警護する男たちの手配、道中の食事の手配と多岐にわたる。それもいきなり明後日だと言われて、小島は内心、途方にくれた こうして、自分が許されて組に戻ることが出来たのも、響さんが組長に頼んでくれたおかげだ。その響さんを喜ばせる為にも、最高の温泉旅行にしたいと小島は張り切った。 取り敢えず宿以外の手配はスムーズに進んだ。だが肝心の宿が見つからない。 組長も納得する温泉旅行にする為には、いろいろと問題がある。 温泉と言えば、風呂・・・もし響さんの入浴を、他の人間が目にすることにでもなったら・・組長のことだ 烈火のごとく怒り狂う様子が目に浮かぶ。 温泉が血の雨で真っ赤に染まるなんてことはないだろうが・・ まず宿の温泉は貸し切りか、部屋付きだな・・ と小島は溜息を洩らした。
きっとこれが坂下幹部なら、間違いなく最適な旅行をプロデュース出来るのだろう・・ どちらかと言うと武道派の小島は、こういうことはあまり得意ではない。 身長にはあまり差がないものの、ひとまわり以上身体のデカイ小島を、あの坂下は、一捻りすることが出来てしまうのだ。 もちろん あの坂下幹部を相手に小島も本気を出すことなどできないが、下手すれば互角に持って行かれる可能性だってある。 あの坂下幹部に弱みなんてないんだろうな・・・ その坂下に電話をしてアドバイスをもらいたいところだが、こんなことで折角の休暇を邪魔するのも悪い。 何か参考になるものはないかと坂下幹部の書棚のファイルを探した。ここには過去に使った宿やホテルなどのデーターもまとめられている。 そこにも几帳面な坂下幹部の性格が現れていた。 そこで、ふと小島は、書棚とその横に置かれたシュレッダーの間の隙間に一枚のメモ用紙が落ちているのに気づいた。 きっと坂下幹部が急いでいて他の書類と一緒にシュレッダーをかけた時、とりこぼしてしまったものだろうと思い、めずらしいこともあるものだと、拾いあげた そのメモには、何と温泉名と宿、その宿の電話番号まで記してあるではないか・・ もしかして、坂下幹部は、自分の留守中に組長が、こういうことを言い出すことを見越して調べておいてくれたのではないかと小島はそれを自分にとって都合の良い解釈に置き換る。 調べてみて驚いた。そのメモの宿は小島が探していた理想の宿、いやそれ以上かもしれない。 供される料理は、京都の料亭で長年修業した板長が創意を凝らした懐石。 『これなら口の肥えた組長も満足してくれるだろう。』 どっしりとした趣のある日本家屋で、母屋の他に露天風呂つきの離れが3つある。 ガイドブックにも載らないような隠れ家的名旅館であるようだった。
早速、小島はその宿に電話して露天風呂がついた離れの部屋を2つ押さえることができた。 『ありがとうございます。坂下幹部〜』 それを坂下の神通力と勘違いし感謝する小島だった。
当日の朝、マンションの地下駐車場に3台のベンツが迎えに来ていた。 見なれた光景なので、もう驚くことはない。 前に車に3人、後続の車にも3人、あと響たちが乗る真ん中の車には2人の部下が乗り込んだ。護衛は計8人か・・・ 響が撃たれて以来、前にもまして警備が厳重になった 謙吾は控え目にすると言っていたが、十分目を引く大所帯である。しかも皆、暑いのに一様に黒のスーツに身を包んでいる。 謙吾は、スーツではなくカジュアルなシャツの上に涼しげな麻のジャケットを着ていた。 自分もそれに合わせて似たような服を選んだ。 響はその外見のわりに洋服にはあまり興味がない。 だから謙吾に合わせておけば間違いないと思っている。 選んだ服が可笑しければ、謙吾は絶対、口を挟んでくるので、言われたら任せておけばいいのだ。 基本的に響が着るものは全て謙吾が選んで買ってくる。 だからその中から選べばまず問題はないはずだ。
「ところで温泉って、どこ?」 旅行に行くと聞いて楽しみにしていたが、まだ行先も聞いていなかったことを思い出す。 旅行に行くのが決まってから謙吾の帰宅は深夜をとうに回った時間で訊くことが出来なかったからだ。 目的地に向かって走りだした車の中で訊くというのも変な話だが・・ 「いい所らしいぞ。 まぁ、急だったせいで貸し切りには出来なかったのが気にいらねぇが・・」 貸し切りって宿を? だがこの男のことだ それくらいはやりかねない。 「俺も、初めて行くところで、よく知らねぇが、どうやら、そこの湯は傷にもいいらしいって話だ。」 今度の温泉行きは自分の傷のことを気にして謙吾が計画したのだと知って、響は嬉しいような重苦しいような複雑な気分になる。 『やっぱり、傷のこと気になるのかな・・』 退院して、まだ二週間、傷痕はまだ 生々しさを残している。 「どうした。疲れたのか?」 急に元気の無くなった響を謙吾が気づかう。 旅行の話を出してから、めずらしく はしゃいでいるようだった。 『はしゃぎ過ぎて少し疲れたのかも知れないな。』 謙吾はそんな響をそっと抱き寄せて自分の肩にもたれかけさせた。
響はされるがまま謙吾に身を預ける。 その謙吾の優しさがただ素直に嬉しいと思えた。
どうしよう・・なかなか温泉に着かない(>_<)
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