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「待てよ」 俺は焦った。いったい友達をやめるってどういうことなんだ?俺は、借金が片付けば響は、あの男と切れるのだと思って疑ってこなかった… その前に出来れば俺が、あの男をムショに叩き込んで、その隙に響を自由にしてやるつもりだった。そんな理由で警察に入ったが現実は思ったほど甘くはなかった。 響が名古屋に赴任している間、俺も響に会えないが、あの男もそれは、同じだと思って安心していた。だから東京で、またあの男の元で響が暮らすのだと知った時、驚きと怒りを感じずにはいられなかった。
俺は響の腕を強く掴んで座らせた。 「この機会を逃したら今度、いつおまえとちゃんと話ができるかわからないからな。俺が何年おまえと友達やってると思ってるんだ。14年だぞ、中学の時からずーとおまえのこと見てきたんだ。」 「俊哉…」 「俺は、おまえの友達は辞めない。そしていつか必ずあの男から自由にしてやる。」 「俊哉、おまえ、バカだよ。」 響がため息まじりにそう言った。 「俺が謙吾と切れないのは、借金の問題だけじゃないんだ… 今更、自由になっても困る…俺は…謙吾なしでは生きてゆけない…この6年でそういう身体になった… だからもう俺のことは、かまわないでくれ。このまま、付き合い続ければきっとおまえにも迷惑がかかる…」 無理して微笑む響の顔が歪む… 「軽蔑していい。男に突っ込まれなきゃ生きていけないなんてな… なのに、それをおまえに言えなくて借金のせいにしただけなんだ。」 だから金のことは気にしないでくれ…そう言って俯く響の頬を涙が伝う。 滅多に泣かない気の強い奴なのに…それも、こんな人目のある場所で… それほど、こいつが言いたくないことを俺は言わせてしまったんだと後悔した。 それなのに、その一方で俺は、 『だからって、別にあの男じゃなきゃダメってわけじゃないだろ…』 そんなことを考えていた。響が男しかダメになってしまったのなら、それはそれで俺にはなんの問題もない。ただ あの男でなければダメだと思っていることが問題だった。 響はあの男に騙されているんだ。響は、昔から奥手でそういったことに疎かった。あの男しか知らないからそんなふうに思うんだと、俺は心の中で歯がみした。 『このままでは、友達の座まで失ってしまう…』 俺は、焦った。
「諦めないで欲しい…」 そう言ってテーブルの上におかれた響の手の甲にそっと自分の手を重ね合わせた。失いたくないその思いが溢れてきて無意識にその手を力をこめて握っていた。 「ずっと助けてやれなくて、俺はズルいと思う。こんなこと言えた立場じゃないことは分かっている。」 俯く響をじっと見つめ続けた。 『友達でもいい…俺はおまえと繋がっていたいんだ。』 ふいに響が顔を上げた…俺の気持ちが響に通じてくれたのだと思った…だけど、 「おまえ、たくっ、責任感じ過ぎだよ。ふつう親友っていっても、そこまで、思わないよ。」 俊哉…おまえ自由になっていいよ。」 と響が、追い打ちをかけるように言う。 「おまえ、今まで俺のこと助けてくれてただろ…それで、もう十分だ。これは、俺の問題だから。」 と笑っていう。さっきまでの思いつめた顔が嘘のように、晴れやかな微笑みだった。 俺も咄嗟に笑った。 「じゃあ、俺の自由にさせてもらう。俺はこれからも響に話しかけるし、おまえが俺をシカトしても俺は、これからもおまえの親友で居続ける。」 こんなことであきらめてたまるか、あの男から取り返してみせる。 そう…いままでのようにもう ただ見守っていくだけの方法じゃだめだ。 「おまえって本当にバカだよ…」 呆れたように響が言う。でもその表情の中に喜びの色が見えた。そこには確かに俺への信頼の情がはっきり見て取れた。 響は最後に、 「ありがとう」 と小さく呟いて帰っていった。 「またな。」 と俺はその後ろ姿に声をかける。 響は黙って頷いた。
『響 おまえが好きだ、愛している』 喉の奥がくっと鳴る…諦めが悪い男だ…14年も思い続けている… もしその言葉を言ったなら間違いなく絶交だろうな…俺は親友、それが響の今の心の拠り所なのは俺が一番知っている。 「親友か…」
俺はずっと後悔していた。本当に響を助けてやりたかったのならあの時、あの男と刺し違えてでも響を守らなかったんだと…あの後、響が嫌がっても連れて逃げなかったのかと… 誰も傷つけない方法で、できるだけ穏便な方法で、あの男から響を取り返すことを考えてきた。響の気持ちを尊重してきた。 それが、一番いいと思おうとしてきた…ずっと自分の心を殺して…
その結果、響は俺の為と言いながら、友達関係まで終わらせるという… 『謙吾なしでは生きてゆけない…この6年でそういう身体になった…』 あの男は、どこまで俺の響を蹂躙(じゅうりん)すれば気が済むんだ!
「必ずあの男の束縛から自由にしてみせる」 俺はもう一度その言葉を確かめるように口にすると、ぬるくなったビールを喉に流し込む。苦い味だけが口に広がった… 見回すとにぎやかだった店内も深夜をすぎ、客が減り閑散としてきた。 俺は、勢いよく席を立つと店を後にした。 俺の片思いは しばらくまだ続く…
少なくともこの時は、そう思っていた。
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